研究インタビュー
Interview about research
※所属、職名はインタビュー当時のものです。

名古屋大学 大学院工学研究科 マイクロ・ナノ機械理工学専攻 マイクロ・ナノ機械科学 助教
村島 基之Motoyuki MURASHIMA
トライボロジーを正しく評価して産業界に貢献する
産業界で求められる良いエンドミルと、それに伴う評価の課題
航空宇宙産業に限らず、産業界全体で必要とされている“良いエンドミル”。
この“良い”とされる基準は、ただ質が良く高性能というだけではありません。
丈夫な良い素材を存分に使えば、質の高いエンドミルは作れますが、それだと価格がとても高くなってしまう為、多くの人に使用してもらうことができなくなるからです。
産業界が求めている“良いエンドミル”とは、“コストがかからず耐久性があり、丈夫で長持ちするエンドミル”のこと。
高耐久性と低価格の両立は産業界では大変重要です。そのために既存の製品では安価な素材を使用した上で、エンドミルの表面にだけ目的に応じた素材を使ったコーティングを施しています。このコーティングされた薄膜の部分のトライボロジー(摩擦や摩耗)を正しく評価するシステム開発が私の研究です。
薄いがゆえその特性を評価することは大変難しく、世界的にみてもサイエンティフィックに統一された評価基準やシステムが確立されていません。その為、エンドミルの製造会社によって評価手法にばらつきがあり、
エンドユーザーにとって良いエンドミルかどうかは実際に使用してみるまでわからないという問題を抱えています。
M C Pを使った世界唯一のシステムとA Iと考えるトライボロジー
統一された基準による評価システムが完成すれば、購入する側もエンドミルの売り手に左右される事なく数値による客観的な正しい判断基準で購入する事が出来る為、失敗のリスクがありません。
現在私が開発中の評価システムは、M C P(マイクロチャンネルプレート)を用いた世界で二つとない評価システムです。10マイクロメートルほどの小さな穴に電子を飛び込ませて、
その飛び込んだ電子の量を増幅させ観測する事で、目には見えない小さな割れなどの観測を可能にしています。
私は現在、A Iを用いたトライボロジー現象の解明に取り組んでいます。トライボロジー現象には機械的、化学的、表面科学的な様々な要因が複雑に影響を及ぼします。A Iは人間には判断がつかない複雑な関係性から特定の関係を導き出すことができるので、この能力をトライボロジー現象の解明に役立てることができないかと日々研究しているところです。さらにこの技術の開発が進めば、M C Pを搭載した評価システムの評価精度向上にも役立ち、評価システムの早期実用化も期待出来ます。
沢山のチャレンジの先にある思いがけない結果こそ、信頼出来る豊かな経験値
今でこそ助教として、日々研究に明け暮れる毎日を過ごしていますが、
私自身、実はもともと研究にはあまり興味がない学生でした。
子供の頃から電車や飛行機などの機械が好きだった私は、大学院卒業後は大手メーカーに就職し、民間企業の技術者として数年働いていました。
しかし、企業が求める“利益につながる研究”と私の興味であった“性能向上の為の研究”に乖離を感じ始めた私は、自分の目指す研究に舵をきる為、企業からの離職を決意。その後、大学で研究者としての人生をスタートさせて、今の私に至る事となります。
学生の中には、これまで大きな失敗の経験がなく、研究室に来て初めて研究や就活活動が思う様に行かず、落ち込んでしまう人がいます。しかし、私の経験上、人生は思った様にいかない事の方が多いように感じます。
しかし、その思った様にいかなかった結果を“失敗”と捉えて落ち込むか、新しい“結果”が見つかったと捉えて、真摯に向き合い新たなチャレンジをするかは、全て自分次第です。しかも、私の経験上思った様にいかなかった先に待っていた結果ほど最後には満足できることが多くあります。
学生には、是非ここの研究で沢山の思ってもみなかったことを経験してほしいと思います。
チャレンジ精神旺盛な学生と一緒に、私も沢山チャレンジして新しいことを学んでいきたいと思います。
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