研究インタビュー
Interview about research
※所属、職名はインタビュー当時のものです。

岐阜大学工学部 知能制御システム工学講座 機械工学科知能機械コース 教授
佐々木 実Minoru SASAKI
高効率と高性能を兼ね備えた、低剛性ロボットアームの研究
剛性の高いロボットアームが抱える問題点
私の研究の専門分野は、ロボット工学におけるシステム制御です。
この航空宇宙生産技術開発センター分野では、ロボットアームの関節のモータ制御を研究しています。
この関節のモータ制御が上手くいかないと、加工の際の力の条件設定がどんなに最適化されたとしても、機械本体がそれを上手く扱えない事により全てを台無しにしてしまうのです。
特に航空宇宙業界というのは、他の業界に比べて高性能な正確さを求められる上“効率的である事”も合わせて考えなければならないので、一般的なアームロボットと同じような作り方をしていては対応出来ません。
通常のアームロボットというのは、アームの部分の剛性を上げて、アーム全体をまるでガンダムの腕の様に固く重くしていく事によって、“アームの部分が変形しない”ようにさせています。
なぜ、このようにアームの剛性を上げる必要があるかというと、アームの部分が振動により変形などする事で、実際に素材に触れる先端の部分の位置がズレやブレが起きてしまい正確な位置で作業が出来なくなる事を防ぐ為です。
剛性を上げる事により、高性能で高品質な作業が出来るロボットアームになるのですが、
ここにこそ、剛性の高いアームの持つ問題点があるのです。
こんどは剛性が上がるほどアームは固く重くなる為に普通のドリルを使うより作業スピードが遅くなってしまいます。作業効率を上げる為の自動化を目指した機械作業のはずであるのに、この剛性を上げるというアプローチでの高品質化では、逆に非効率になってしまうのです。また、剛性の高いロボットは大型となります。企業導入の面で言うと、大型のロボットは配置の自由度が低下することや、高価であることから導入を難しくする要因の一つとなってしまうのです。
したがって、高品質ならびに高性能であることを保ちながらの効率化を目指す為には、軽量化された小型のアームを開発する必要があるのです。
『高速で高性能なロボットを可能にするエンドエフェクタ』
もともと私の研究室では、低剛性なロボット開発の研究を行っていました。
その経験を活かして、この航空宇宙生産技術開発センターでも、剛性の高いロボットアームの改善に取り組んでいます。
この研究開発において、“先端の精度をどうやってあげるか”というところが最も重要なポイントです。
仮に、アームの部分が変形したりしてしまっても、先端の部分の精度を上げる事が出来れば、剛性を上げる事なく、低剛性のまま、高速度と高性能を実現する事が出来るからです。
その為には“制御予測”の開発が必要になってきます。
しかし、このフィードバックを常に機械に対して行おうとすると、それをする為にシステムが大きくなってしまうというジレンマを生んでしまう為、予測データの観測の仕方も考慮しなくてはなりません。
システム制御は“どのように、どんな方法で観測するのか”という事も、非常に大きな課題になります。
また一方で、アームの先端部分に特殊な「エンドエフェクタ」をつけて、この先端部分でアーム全体をトータルで制御しようという研究開発も進めています。
一般的なアームロボットでは、アームの関節部分のモータで先端の動きを制御するという事が行われているのに対して、この特殊なエンドエフェクタの開発が進めば、荒い動きを本体でして、細かい微動をエンドエフェクタで行うという仕組が成り立ちます。
そうする事で、低剛性を保ったまま、高速かつ高性能な作業が可能になるのです。
『機械の小型化が生む次の課題』
今の機械作業ではロボット自体が大きく剛性が高い為ロボット単独での作業というのが一般的です。
しかし、小型化が進むとロボットを並列して沢山置き同時作業が可能になるというメリットがあります。
ロボット同士がお互い協力して作業する事が出来れば、作業効率も一段と上がる事が期待出来るでしょう。
その際に大事になってくるのが、“ロボット間の協調性”です。
その為には、ロボット同士をネットワークで繋ぎ、AIなどの機械学習を取り込むという事も必要になってきます。
この機械学習などの研究も、私の研究室では以前より画像処理などの研究で実績を積んできている為、この小型化ロボットの協調性の開発に大いに役立っています。
そして、この協調作業の研究で面白い事がわかってきました。
作業条件によっては一方の機械がずっと稼働しているのに対して片方の機械は全く稼働しないという事が発生してしまうのです。
これは、まさに人間の世界で起る事の縮図のようだなと感じています。
しかし、これでは私達が望む作業の最適な効率化は実現出来ません。
機械自体の作業稼働率がそれぞれ50%という半々になるような条件設定と学習を与えなければいけません。
そうしないと、片方の機械の負担が増え、機械自体の耐久にもバラつきが生じてしまい結果、故障の原因になりラインが止まるという自体にも繋がりかねません。
この航空宇宙生産技術開発センターでの他の分野の研究室との横の繋がりを活かし、この小型化の研究成果を確実なものにしていきたいですね。
この小型化と協調作業の研究は、今後様々な業界に応用出来るものと期待しています。
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