研究インタビュー

Interview about research

※所属、職名はインタビュー当時のものです。

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航空宇宙生産技術開発センター / 岐阜大学工学部 機械工学科 知能機械コース

伊藤 和晃 Kazuaki ITO

力触覚情報と視覚情報を活用し、ロボットにヒトの動きを真似させることで、ロボットの活用範囲を広げる

ロボットが行える作業を、今よりもさらに広げる

日本は現在、少子高齢化、人口減少の時代に入っています。それに伴い、どの業種の現場においても人手が不足する事態が起きており、産業界も例外ではありません。また同時に、人を単純労働から解放して、より知的な作業で活用できるようにする取り組みも、世界的に行われています。
そのためには、ロボットができる作業を今よりもさらに広げ、人の代わりに働けるようにする必要があります。現在のロボットは、主にハンドリングやパレタイジング、溶接作業を中心に活用されています(1)が、これを加工などの分野にも活用し、人の作業を肩代わりする存在に育てていくための研究が、私の研究です。

参考文献(1)「World Robotics 2024」

ロボットの活用範囲を広げるためには、ロボットにヒトの動きを教える必要がある

その一環として、多関節ロボットにドリルを持たせ、航空業界で求められる高い精度で孔(あな)開け作業を行わせる研究をしています。産業の加工現場では、いわゆる工作機械は数多く存在していますが、多関節ロボットはあまり活用されていません。
工作機械は高い剛性を持っているため、一定の速度でドリルを動かしても、その反力を十分に受け止め、きれいな孔を空けることができます。しかし、たとえば人がドリルで孔を開ける場合はどうでしょう。人は工作機械ほどの丈夫さはありませんが、十分に経験を積んだ人であれば、ドリルできれいな孔を空けることができます。よく観察してみると、最初にドリルの先端がずれないように、グッと力を込めて材料に押し当てながら回転を開始し、ドリルの先端が材料を彫りはじめたら、一定の力でドリルを押し込んでいきます。そして、ドリルが抜ける直前くらいから力を緩め、ドリルが抜けたら引き戻します。そうやって、きれいな孔をあけています。

一方ロボットは、人よりは丈夫ですが工作機械に比べると剛性が低くなります。そのため工作機械と同じように一定の速度でドリルを動かそうと思うと、反力に負けて振動したりたわんだりして、きれいな孔を空けることができません。そこで経験を積んだ人のように上手な力加減ができるロボットを研究することで、剛性のないロボットでも航空業界で通用する高い精度の孔開けができるようにしようとしているのです。

さて、ロボットに人の動きを真似させたいのですが、そうすると従来のティーチングでは不十分になってしまいます。なぜなら、従来のティーチングというのは、ロボットが停止する場所とその経路を指示するもので、状況に応じた対応をしたり、微妙な力加減を調整するものではありません。そこで私は、ロボットの活用範囲をより広げるために、人の動きや力のかけ方などを数値化し、それをロボットに教えるという研究を行っています。

ヒトの動きをデータ化し再現するために力触覚情報と視覚情報を活用する

そのために活用しているのが視覚情報と力触覚情報です。模倣学習という方法を用いてロボットに動作を教えるのですが、その際にVRゴーグルを用いて、ロボットからの視線でコントローラーの手元を見ながら操作します。具体的には、ロボットの近くに、その動きを撮影するカメラを二台設置しました。いわゆる二眼カメラで、右目の映像と左目の映像が取得できます。そして、その画像をVRゴーグルに表示させ、ロボットが見ている光景を人がVRで見られるようにしました。

これにより、カメラの中の画像がどのように見えていたら、どのように動くべきかをAIが学習できるようになります。ロボットが自分で映像を見ながら、自分で判断し、自分で作業できるようになるのです。現在さらに、ロボットアームが感じる力触覚情報をコントローラに戻して人が感じられるようにするシステムを開発中です。人は視覚情報だけでなく、物を掴んだり物に触れたりする感覚に基づいてロボットを操作することになりますので、そこで学習したAIは、カメラで見る映像と力触覚情報を基にロボットの動作を決定できるようになり、経験を積んだ方が持つ職人技の獲得に近づくと考えています。
なお、力触覚を人が感じられるようにするコントローラにはリアルハプティクス™という技術を活用しています。

※リアルハプティクス™はモーションリブ株式会社の商標です。

人と同じように感じ、考え、動くロボットで人口減の時代に対抗する

従来、ロボットのティーチングでは、ティーチングペンダントを使用し、プログラムを組むのが一般的でした。しかし近年、特に協働ロボットなどにおいては、人間が手でロボットアームを直接動かすことでティーチングを行うケースも増えてきました。この形式は、プログラミングの知識がなくともティーチングが行いやすく、また操作も直感的なのがメリットです。しかし、これはあくまでも従来のような、軌道と場所をメモリに残していく作業でしかありません。一方でVRやリアルハプティクス技術を使用すれば、人が見ていることや感じていることを、データ化できます。

VRゴーグルには、人の目線の動きや、頭の傾きを検知するセンサも搭載されています。そのため、人が作業する際に、どのような場所をどうやって見ているかも数値化できるのです。それとコントローラーで取得した力加減や動きのデータを合せます。そのようにして人が見ているものや、感じているもの、そして動きをAIに学習させ、人と同じように感じ、考え、動くようにするのが目標なのです。

このような研究が広がり、重たいものを持ったり、同じものをずっと運ぶような苦しい労働から人が解放されれば、人はもっと生産的な仕事を行えるようになります。またこのようなロボット化や自動化を行うことで、労働環境が良くなり、人が集まりやすい職場が作れるようになります。

人口減少時代のロボットの活用というと、省人化の文脈で語られるケースが多いです。しかし、このように、苦しい労働をロボットに行わせることで労働環境を改善し、人が働きやすい環境を実現すれば、人が募集しやすくなる効果があるはずです。

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