研究インタビュー

Interview about research

※所属、職名はインタビュー当時のものです。

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岐阜大学工学部 機械工学科 知能機械コース 准教授

佐藤 惇哉Junya SATO

コストと現場環境を考慮した画像による計測と自動化技術

AIを用いた画像認識は、実はとてもコストがかかる

私の研究テーマは主に画像を用いた計測や検査、自動化になります。対象物や目的に応じてAIを使ったり、進化計算と呼ばれる最適化技術を導入したりと使い分けをしています。

AIを用いた画像認識では基本的に大量の学習用画像を用意し、長い時間をかけてAIを学習させる必要があります。
計算量が多いため、高速化のためにはGPUを搭載した高価な計算機やサーバーが複数台必要になってしまいます。当然導入コストは高くなりますし、導入後も主に電力のランニングコストが必要になります。
そうすると中小企業を中心に、画像認識技術の導入がコスト的に苦しいため見送られる場合があります。そこで私はAIを使わず、単純な画像処理の組み合わせだけで高速かつ高精度な計測をノートパソコンといった安価な計算機で実現する研究も実施しています。
現場を見ていると、必ずしもAIが必要なケースではないと感じることがあります。そのような場合には、まずは学習を使用しない単純な画像処理の組み合わせからトライしてみる事を提案しています。

たとえば、航空機部品を生産している工場の中で,ドリリングされたアルミ合金の穴の中に切粉が残留していないかを作業員が目視で確認する作業があります。熟練した検査員でも疲れてくると見逃しが発生する可能性があるため、画像認識技術でサポートするシステムが必要となります。研究の世界では目視検査の自動化と言えばAIの出番ですが,穴の中に残留する切粉をチェックできればその現場では十分ということを考慮すると,実はAIを使わなくても単純な画像処理の組み合わせだけで解決できたりします。これが最終的にコストの削減に繋がります。このように、コストや現場環境を考慮した上で、ベストな手法を構築する研究に取り組んでいます。

密なコミュニケーションが現場実装のカギ

私が主に研究しているコンピュータビジョンという分野では、人間が持つ視覚認識能力を計算機に持たせることで、自動化などに活用することが最終的な目標となります。これを実現するためには、例えば目視検査を実施している熟練した作業員が、何を見て、どのように解釈し、なぜそれを異常として判断したのか、といったプロセスを正確にモデル化・数式化する必要があります。人によってこの判断や解釈にばらつきがあるため、それを考慮した上でまとめ上げることも必要となります。この作業が不十分だと人間に匹敵するような検査性能を実現できないため、現場の方々と密なコミュニケーションを取ることで詳細を聞き出し、どのようにモデル化するべきかを常に考えています。

密なコミュニケーションの重要性は、企業の方々と共同研究をする度に痛感します。研究の世界ではとにかく画像を使った計測や検査の性能を向上させれば十分ですが、現場の方々からするとそれだけでは不十分です。先ほど述べた導入コストとランニングコストの問題を考えなければならないですし、他の生産ラインとの兼ね合いはどうか、画像認識にかかる時間は問題にならないかなど、全体を考える必要があります。そうなると、高価で高性能な計算機を使って最新のAIを構築したとしても、それが現場環境と馴染まなければ開発した技術を使って頂けないことになってしまいます。せっかく時間とお金をかけ、苦労して開発したものがお蔵入りしてしまうのは非常に勿体ないです。このような事態を避けるためにも、まずはその現場の環境や実情を知った上でシステムの開発をするように心がけています。そのためにはやはり,人と人との密なコミュニケーションが重要だと感じています。

見極める能力の重要性

ここまでの文章を見ると、なんだかAIを否定している側のように映るかもしれませんが、全くそうではありません。たとえば自動運転のための画像認識技術は、絶対にAIの力が必要です。自動運転では朝昼晩、どのような天候であっても人や信号機、周囲の車、標識、飛び出してくる動物を正確に認識する必要があります。この認識ルールを人間が一つずつ作り上げていくのは非現実的です。一方で、AIはそのルールを学習というプロセスを通して自動的に作り上げることができます。最近の技術では動画像に加えて文章や音声といった性質が異なるデータも一緒に取り扱えますし、対話もできるようになっています。これは簡単な画像処理の組み合わせでは到底作り上げることはできません。そうするとやはり、目的や対象に応じてそれ相応の技術を選択し、足りない部分については独自に改良していくことが必要となります。

今はAIがブームになっているため、簡単な問題であっても最初からAIで取り組もうとする人も多いです。しかし私のように、深層学習といったAIが出てくる前と後を知っている身にとっては、本当にそれってAIが必要なの?と思うケースがしばしば見られます。そして実際にAIを使ってみると、なかなか上手くいかずに困ってしまう場合もあります。これまで画像に関する研究をしてきて思うのは、見極める力は重要ということです。特に昨今の物価高や電気料金の高騰を考慮すると、本当にAIを使うべきかの見極めは重要だと思っています。まだまだ経験不足でその見極め力は不十分ですが、今後の研究を通して培っていければと思っております。

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