研究インタビュー

Interview about research

※所属、職名はインタビュー当時のものです。

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高等研究院航空宇宙生産技術開発センター 准教授

尾関 智恵Tomoe OZEKI

メタバースにおける心理的な特性や自由度の高い環境を利用し、人材育成や職業訓練に役立てる

メタバース空間は心理的にも、行動的にも人に影響を与える

私はメタバースを利用した人材育成についての研究を行っています。
きっかけは、コロナ禍で行ったオンライン授業でした。Zoomを用いた授業なども行ったのですが、やはり現実のような人と人との双方向のコミュニケーション、いわゆる「わちゃわちゃ感」のようなものがありません。そのような折、学会などでメタバースを活用しようという動きがあったため、それに賛同し、研究としての検討を開始しました。

現在は、以前いた大学に所属している学生の卒論を指導するのにメタバース空間を活用し、発表練習なども使っています。私は主にcluster (クラスター)というプラットフォームを使い、学生が持っているパソコンのパワーやスマホでも手軽にできることを考え、クラスターを選択しました。
メタバースに興味を持ったきっかけは、同じ研究室の友人に誘われたことです。メタバースの中では、参加者は自分の社会的立場などに関わらず、自己プロデュースをしています。また、健康のために朝にラジオ体操をするグループや、子育てに悩むお母さんのグループ、他にもさまざまなグループがたくさんあり、自由な雰囲気があります。
一方で、教室での授業には限界があります。教室というのはとても特殊な空間で、安全に外のことを学ぶためには、いい空間ですが、実践的なことはあまりできません。しかしVRならば、挑戦的なことも行いやすく、学習者がアバターをまとうことで、ただ黙って授業を聞いたり、積極的に発言するなど、自分のスタイルに合った学び方、参加の仕方ができるのです。
私は認知科学を最初に学び、そこからエンジニアリングの世界に入ってきました。そのため、生産の現場に対して、心理実験とか社会実装という視点からアプローチを行っています。

メタバース空間にはプロテウス効果があります。プロテウス効果とは、心理効果の一つで、選ぶアバターによって振る舞いや言葉が変わってくる効果のことです。これが意志決定の過程に、どのような影響を与えるかを実験的に研究しています。

メタバースだからこそできる授業を研究中

現在は、メタバースの活用方法について、実際にどんな使い方ができるかも含めて研究を行っています。
また、岐阜大学ではPAL講習という、社会人と学生が一緒になって生産過程や工程について学ぶ機会があるのですが、現在その講習にメタバースを活用しようと試みています。PAL講習には、岐阜大学の学生だけでなく、名古屋大学の学生や社会人の方も参加しています。
そのため、岐阜大学までわざわざ来てもらうと、お金も時間もかかってしまいます。そこでメタバースを活用して、みなで一緒に授業をしているのです。

学内に生産ラインを再現したものが組まれており、PAL講習では、これを活用しながら授業を行います。学生や社会人の方が一緒に検証し、できるだけムダのない、効率のいいラインを作るために話し合い、ブラッシュアップする議論を行うのです。名古屋大学の学生や、社会人の方、いわゆるデジタルツインとよばれる、講座用のラインと全く同じものをVR上に構築し、メタバース上でそれを見ながら、実際のラインを見ている学生たちと一緒に改善案を話しやすくなるように、メタバース活用方法を検討・提案しているところです。
VRの製造ラインならば、本来のラインだと安全のために緊急停止してしまう距離まで近づくことができますし、VRゴーグルを使えば、まるで自分がそこにいるように見ることもできます。製造ラインだけでなく、VRの機械モデルであれば、学生たちが自由に触れて、じっくり観察したり、何度でも好きな時間に繰り返し見られるのもデジタルコンテンツの強みですね。

ちなみに、VR上では製造ラインだけではなく、航空宇宙生産技術開発センターの建物や他の教室なども再現されており、教室で授業もできるようになっています。

視覚だけでなく、力触覚もメタバース空間に取り入れる

他には、力触覚や感覚に訴える、力覚提示についても研究をしています。力触覚が人の学習にどのような影響を与えるか、いい影響も悪い影響も明らかにしていかないと、実際の教育現場で使うことはできないため、それらを測定しています。
たとえば、触っている感覚を反力や振動(バイブレーション)で提示する。将来的にはそのようなコンテンツを人材育成に使いたいと考えています。繊細なものから固いものまで、力触覚を組み合わせて、エンジニアリングだけでなく、医療や教育などにも活かしたいです。とはいえ現在はまだ、どういうことができるか可能性を探っている段階です。
たとえば、エンジニアリング分野では、ネジ締めの体験などをやろうと思っています。最近の学生たちは、勉強をしっかりしてきている反面、安全面などの問題からあまりそういったものに触れないまま育ってくるようで、組めないものを無理に組んだり、ネジを締めすぎるケースが多いです。そこで、そういったものに対して力触覚を活かして感触を伴って安全を確保しながら覚えてもらうという取り組みです。

メタバースの活用で、就労の機会も広げていく

また私は、全国障害者技能競技大会(全国アビリンピック)にも携わっています。これは障がい者が健常者のようにスキルを競うもので、特にコンピュータプログラミングという競技に関わっています。
アビリンピックとは、障がい者でも健常者と同じようにスキルを持って、世の中に貢献できると知らしめるためのイベントです。ここに出場してくる人の中には、プログラミングでロボットを自在に動かすなど、かなり高いスキルを持っている人もいます。しかし、養護学校や自主学習でしっかり学んでいたとしても社会で働いた経験がないという理由で、就職ができないケースが多いのです。けれども、VRの現場で経験を積むことで、そういう人にも就職の機会が拓かれるのではないかとも思っています。

現在、さまざまなものがメタバースで行われるようになってきました。それに伴ってメタバースの中でロボットのプログラミングの検証を行い、それを実機に載せたりしています。そういう世界であれば、障がいのある人や、子育て中や病気などで家から出られない人も、スキルによって仕事をすることができる社会が来るのではないかと思っています。

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