研究インタビュー
Interview about research
※所属、職名はインタビュー当時のものです。
名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻 教授
鈴木 達也Tatsuya SUZUKI
人間同士の想いやり行動を解明し、知能化機械と人間の共生を目指す
機械知能の向上による知能化機械と人間との関係性の変化
私の研究室では、制御システムの研究をバックグランドとしたA M R(Autonomous Mobile Robot自律移動ロボット)の研究に取り組んでいます。
A M Rとは、“移動に必要な知能及び機能を搭載したロボット”として定義されています。今までのA M R研究においては、移動速度やエネルギー消費といった測定可能な物理的指標を最適化することが主な目的となっていました。しかしながら、昨今いろいろな場面でAMRが使われるようになるにつれ、「人がいる環境下でいかに効率良く移動できるか」が求められるようになってきました。そのためには周辺他者との適切な合意形成、すなわち、「人との共生」が非常に重要となります。
センサやA I技術の進化で機械はこれからどんどん賢くなります。ですが、それでも人間との間での合意形成の実現は決して簡単な課題ではありません。単なる人間の支援ではなく、人間と対等に意思疎通できるような制御システムの設計は学術的ハードルが非常に高いですが、「移動」というタスクに限定すれば、解決の糸口はあると考えています。この難題を突破するためには、学際的視座に立って人間に対する深い理解と工学的システム設計論を融合させることが不可欠であると考えています。
次世代の知能化機械に求められる利己的行動と他者への配慮の調和
では、人間との共生の実現のためにどのような考え方に立つべきでしょうか?
現在のA M Rは、周りに人がいる場合、“とりあえず自分の優先順位を下げて人の行動を優先する”という思想で設計されています。この場合、例えばAMR自身が進もうとする道の前に人が大勢いた場合、そのAMRは進む事が出来ません。これですと“搬送する”という任務の遂行上大きな妨げとなってしまいます。
人間同士のインタラクションに置き換えて考えてもらうとわかり易いのですが、適切な人間関係や協働において他人を優先させすぎると、結果的に自分の任務や目的を遂行するのに多大な時間がかかってしまいます。これですと、その人の仕事や人間性においての「信頼」を得ることは非常に困難です。
これと同じことがこれからのA M Rなどの知能化機械にも当てはまります。
人間の行動を優先しすぎてA M R自身の任務である搬送を果たせない場合、そのAMRに対する企業や社会からの評価・信頼を得る事が出来ません。とは言え、一方でAMRが強引な行動をし、人を傷つけてしまっては元も子もありません。
この問題を解決するには、人間同士の様な適切で円滑なインタラクションをAMRと人間の間で実現する必要があります。移動速度やエネルギー消費といった物理的評価基準ではなく、人間の行動のモデル化や判断機能を研究して機械の行動に取り込むという取り組みが既に始まっています。
機械が自身の利己的な行動目的をできるだけ損なうことなく、周辺他者に対してもきちんと配慮をする。そういったAMRが私たちの目指す次世代搬送用A M Rの理想の形です。
知能化機械が人と共生するためのキーワードは「想いやり」
日常でよく耳にする「あの人は想いやりのある人だね」「想いやりのある行動を心がけよう」など、“想いやり”という言葉。
日常でよく使われていますが“想いやり”って実際は何でしょうか?
実はこの日本語の“想いやり”という言葉に対応する英語は存在しておらず、日本独自の言葉だという事が分かっています。
例えば東京駅などの人が密集した場所で、多くの日本人は他人とぶつかる事なく、スルスルと人混みを進む事が出来ます。この行動は実はロボットにはかなり難しいことで、これこそがまさに私の考える利己的でありながらそれでいて「想いやり」を持った行動の代表例です。
人間は人混みをすり抜ける際には、相手の行動を妨げる事なく、相手の動きや意図を瞬時に予測し、言葉を用いることなく意思疎通を図りながら自身の行動を決めて実行しています。ここから導かれる「人間特有の行動規範」を知能化機械に実装出来れば、前節で述べた次世代搬送用A M Rの実現が可能となります。
研究分野の垣根を超えた研究室同士の繋がりが研究の実現を促進する
実際の人間に近い“想いやり”をもって行動するロボットの開発には、制御システムの研究者のみでは到底実現出来ません。実現にはまず、そもそも人間とはどういったときに思いやりを感じるかということを解明する人文科学系の研究者も必要となります。
これは、AMRの制御の研究に限ったことではなく、どの研究課題でも学際的な研究が重要になり、異分野の研究者や研究室同士の繋がりが、これから先非常に重要となってきます。
こういった研究者や研究室間のつながりを生みだすのがこのセンターの大きな役割の一つでもあります。
普段は同じ大学の教員同士でしか交流がありませんが、このセンター創設のおかげで岐阜大学の先生方とも交流する機会ができ、私の研究の幅も大きく広がりました。
このセンターから、多くの可能性や開発が出来ることを期待しています。
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