研究インタビュー
Interview about research
※所属、職名はインタビュー当時のものです。
岐阜大学工学部 機械工学科 知能機械コース 准教授
松下 光次郎Kojiro MATSUSHITA
現場に即した研究開発で、社会実装の促進を
日本の産業界におけるシステム設計の課題
私の研究開発は、企業さまからのご依頼を受けて進めていく研究開発がほとんどです。
その業種も様々で、工業、農業、医療福祉業界など多岐に渡って対応しています。
私の研究の主軸は“福祉ロボット”であり、人の運動計測から分析、人を支援するロボットを開発するなど、ハードウェア・ソフトウェアの両方のバランスのとれたシステム開発を目指しており、大学内においても知能機械コースでハード面とソフト面のどちらにも理解のある人材を育てることにも尽力しています。
現在の日本の社会では、ソフト面の研究はだいぶ進んでおりその精度もかなりの成果をあげています。
しかし、どんな優れたソフトウェアが完成してもその基盤となるハードウェア側がその性能を活かしきれていなければソフトウェアの性能を台無しにしてしまう可能性もあるのです。
また現場の状況を把握せずに、新しいシステムを実装すると、徐々に現場の環境や状況に微妙に合わないことがわかり、結果的にそこで働く人間の負担を増やしてしまうことや、改善に余分なコストがかかってしまうという本末転倒な結果になることも多いです。
その為に、“ハードとソフトのバランスの良いシステム設計のコンセプションを基にした実際の現場でのコンサルティング”が出来る人間が、今の日本には特に必要となっていると考えます。
実際に現場に足を運び、その現場の状況を把握し現場で働いている人達の声にしっかり耳を傾け、問題点を分析し、適切なソフト・ハードの組み合わせで、安価かつ効果的なシステムを実現させる事が何より重要となります。
このように、何が問題で、何が必要か、どうすればこの現場に即して現場の人の要望に合ったものになるのかという“現場のニーズに即した、試行錯誤的なシステムの構築”を行うかが、今の日本の産業界におけるシステム開発プロセスの課題と言えると思います。
その点を強化することで、新規技術の社会実装という点において進んでいる欧州諸国に追いつけると信じています。
IoTという言葉の真意から読み解く、システム開発の在り方
機械に詳しくない人でも「IoT」という言葉を一度は耳にした事があるぐらい最近では広く一般的に知られているワードになりました。
しかし、この「IoT」という言葉の意味とその真意をきちんと正しく理解している人は少ないと思います。
多くの人は“機械がインターネットに繋がる”といった認識で止まっているからです。
では、「IoT」とは実際にどんな意味なのか。
今までは高精度の計測機器を人が判断したピンポイント部分に取りつけて局所的に測る事しか出来ませんでした。
それは高精度の計測機器はとても高価なモノだった為、値段が高くて沢山購入する事が出来なかったからです。
また人が判断して計測機器を取り付けた場合の問題点として、適切な局所を外してしまい必ずしも効率的に計測できていない可能性もありました。
それに対して、現代ではスマートフォンなど多くのモバイル製品が当たり前に普及し、それらモバイル製品には、さまざまな種類の小型・中精度センサーが使われています。
このように、小型・中精度センサーが大量に販売されて、値段が安くなった事が、「IoT」の価値を高めた非常に大きな理由なのです。
つまり、今までは局所的に高価な高精度計測器しか置けなかったのですが、現在は安価で中精度計測器を網羅的に沢山置いて全体的な計測が出来る様になりました。この網羅的な中精度・計測値を、AIによるビッグデータ解析で取り扱うことにより、全体の状態を見逃すことなく計測することが可能となったということです。つまり、従来よりも網羅的に効果的に判断出来るという世界になっていくというのが、「IoT」の存在意義です。
また、AIもIoTもオープンソースや安い値段で構築出来るようになっているので、このAIやIoTを“普及型最新技術”として、いかにして現場に実装し結果を出すかが重要であり、ボトムアップ的にプラットフォームを作っていかなければいけない時代に入っているという事を、日本の産業界全体が認識しなければなりません。
積極的な社会実装への取り組みが、早急に今求められています。
学生にも社会にも、本当に意義ある人材育成を目指して
企業は、一つの技術に特化している傾向があることから、複数の要素技術で構成されているシステムを完成させるためには、自社以外の知識技術が必要となります。しかし、他社との連携はいろいろ難しく、家電等の新製品開発が活性化しづらいという課題があります。
それに対して、大学研究者の得意な点は、広い知識と技術力を用いた新しい要素技術・システムの研究開発であり“試作品”をつくれますが、壊れにくくメンテナンスも考慮した“製品”は実現できません。
つまり、次世代産業のために大学が提供すべき教育のひとつは、できるだけ製品に近い試作機を作り出せる社会実装教育と、私は考えています。そのため、私の研究室では製品化に興味を持つ学生と、ベンチャーを起業し、協力企業さまとの取り組みにより実際に共同研究成果の製品開発・販売に成功しております。そして、その知識技術経験を、大学教育や学術研究にフィードバックしています。
学生としては、学術研究者の技術サポートのもと、できるだけ安全にベンチャー企業を立ち上げ、事業家としての立場を経験することができます。特に、事業による報酬により博士課程に進学しやすくもなり、社会人として意識を持った上での高度な知識技術を得ることのできる機会となります。
現在は、次世代製品開発が出来る人材の確保が急務と言われていますので、大学で高度な研究開発を経験し、同時にベンチャー企業で事業者としての社会実装の為の取り組みとビジネスとしての視点を学んできた博士人材は、喉から手が出るほど魅力的な人材になると思っています。
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